ビットコイン盗めば窃盗罪 中国の暗号資産規制に新たな座標軸[ビットコインA to Z]
概要
- 中国司法当局は、ビットコインを法定通貨ではないが財産として認め、窃盗罪を適用した青島の判決を模範事例として示した。
- 検察日報の論評、8部門の合同文書、最高人民法院の発表を通じ、仮想通貨を違法な金融活動と位置づける一方、財産性を前提に売却・焼却・返還のモデルを進めていると伝えた。
- 中国は仮想通貨の取引を禁じながら財産権は保護する二重構造を築き、今後押収したビットコインなどデジタル資産の処分と制度化の出発点を整えた。
期間別予測トレンドレポート



2023年7月、中国・山東省青島のある事務所で起きた出来事だ。彭氏はデジタルウォレットを新しいものに切り替えていた。ビットコインのウォレットを移すには12個の英単語が要る。ニーモニック(mnemonic)またはシードフレーズと呼ばれるもので、ウォレットを開くための一種のパスワードにあたる。これを持つ者が、そのウォレットの持ち主になる。
彭氏は新しいウォレットを作成し、生成された12個の単語を紙に書き留めた。隣にいた張氏がそれを盗み見ていたとは気づかなかったのだろう。ごく短い間だったが、張氏は11個の単語と、12個目の単語の頭文字まで覚えたという。その夜、張氏は帰宅してパソコンの前に座った。ニーモニックに使われるのは、あらかじめ定められた2048個の英単語だ。頭文字が分かっていた12個目の単語を突き止めるのは難しくなかった。
張氏は彭氏のウォレットからビットコイン107個を抜き取り、別のウォレットに移した。その後、一部を換金サイトで売却し、66万元余りを手にした。当時のビットコイン相場を踏まえると売却額は少ない。一部だけを処分したのか、取引自体が違法な中国で闇市場を通したため値が下がったのかは分かっていない。
彭氏が盗難に気づいた時には手遅れだった。警察が捜査に乗り出し、検察が起訴した。2025年4月28日、青島市李滄区人民法院は一審で、張氏に窃盗罪で懲役10年9カ月、罰金10万元の判決を言い渡した。張氏は控訴したが、青島市中級人民法院は同年11月10日に退けた。一審判決からすでに1年以上がたつ。
1年前の判決を今持ち出した理由
ところが2026年6月7日、中国最高人民検察院の公式アカウントにこの事件が掲載された。単なる事例紹介ではない。この判決を模範事例として示し、「習近平法治思想を深く学び徹底し、すべての事件を効率的に処理する」と題した点にも政治的な重みがにじむ。直前6カ月の流れを振り返る必要がある。
2025年12月13日には、最高人民検察院の公式メディアである検察日報に「刑事事件に関与した仮想通貨の多様な司法処分ルートの構築」と題する論評が載った。捜査機関がこれまで押収してきたコインが少なくない一方、その処分に関する法的根拠は曖昧だという問題を取り上げた。そのうえで、売却・焼却・返還の3つの処分モデルを分けて適用すべきだと提案した。
2026年2月6日には、中国人民銀行をはじめ8部門が合同で文書を公表した。内容は強硬だった。仮想通貨に関わるあらゆる営業活動が違法な金融活動だと改めて確認し、新たに台頭したステーブルコインも監督対象に加えた。取引禁止の範囲を広げた格好だ。
2026年5月には、中国最高人民法院が、仮想通貨など新型金融事件に対する司法対応措置を踏み込んで研究すると発表した。裁判所ごとに判決が食い違う実情を統一基準で整理するというシグナルだった。
そのうえで6月7日の模範事例の掲載へとつながった。この6カ月間、中国司法当局が積み上げてきた流れの仕上げ段階とみてよい。
禁じながら保護する矛盾
青島事件を担当した検察官は掲載文で「現行政策は仮想通貨の法定通貨としての地位は否定するが、財産としての属性までは否定していない」と記した。
法定通貨ではないという点はなじみ深い。人民元やドルのような決済手段としては認めないという意味だ。ビットコインで飲食代を支払うことはできず、取引所を開設して営業することもできない。だが財産としての属性は認めるという点は新しい。誰かがそのビットコインを盗めば、窃盗罪になるということだ。
例えば、取引が禁じられた絶滅危惧種の動植物を考えると分かりやすい。虎の毛皮や象牙を売買する行為そのものは違法だ。しかし、その毛皮や象牙を盗めば、別個に窃盗罪が成立する。取引の違法性と財産権の保護が切り分けられている構図である。中国がビットコインに当てはめた論理もこれに近い。
そこには現実的な事情がある。中国当局はこれまで、詐欺や資金洗浄、賭博の捜査で相当量の仮想通貨を押収してきた。検察日報の論評が示した売却・焼却・返還の3つのモデルに従うとしても、売却すれば取引禁止の原則と衝突する。そのまま保有すれば価値が変動する。返還しようにも、誰に戻すのか明確でない。
財産性を明確に認めることは、この3つの処分の法的土台になる。「財産」であってこそ、売却も焼却も返還もできるからだ。「財産としての属性は否定しない」という命題は、中国が今後、仮想通貨の押収資産をどう扱うかを考える出発点になる。
制度化の2つの道筋、そしてAI中国の選択
一般に、処罰や規制が強まれば反発が強まると思われがちだ。だが暗号資産業界は世界各地で、法や制度の整備を歓迎してきた。特別に大胆だったからではない。強い処罰や厳格な規制は、コインを構成する様々な要素を法で定義して初めて可能になる。そこに合法化への道を見ていたためだ。
米内国歳入庁(IRS)が2014年にビットコインを通貨ではなく「財産」に分類した際も、譲渡益課税の負担は生じた。それでも業界は、正式な財産カテゴリーに組み込まれたことを、表の経済に入る出発の合図として受け止めた。その後、欧州連合(EU)がMiCAで強い規制の枠組みを導入した時も、日本が資金決済法改正で取引所ライセンスを義務化した時も同様だった。表舞台に出られるなら、重い義務も受け入れるという心理が働く。
では中国はどうか。他国が取引や営業まで制度の表側に取り込む一方で、中国はまず財産権を表に引き上げた。同じ「制度化」という言葉でも、出発点は異なるのではないか。
中国は人工知能、ロボット、自動運転といった次世代技術で、米国を追い、肩を並べ、時に先行もする。だがデジタル資産に限っては別の道を歩む。ドル覇権へのけん制、資本規制、デジタル人民元の推進といった独自事情があるように映る。
もっとも、技術の進歩が速まるほど、取引と財産権を切り分けて扱うコストは大きくなる。青島事件が1年を経て習近平法治思想の模範事例として再浮上した背景には、この二重構造をさらに精緻に整える必要があるという司法当局の判断がありそうだ。AIを前面に押し出す中国が、デジタル資産ではどこへ、いつ次の一歩を踏み出すのか。注目点となる。
キム・ウェヒョン 又石大兼任教授
韓経ビジネス寄稿

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